これ、あげる


 その男は、女の子の4つの誕生日の日に引っ越してきました。

おうちの真裏の一軒家。

その男の子とは同じ年で、同じ幼稚園に通うことになりました。

  その男の子は少し変わっていて、輪の外から友達を眺めたりしているこでした。

もう1つ変だったのは、引越してきた日から、何故かその女の子にいろいろな物をあげようとするのです。

幼稚園で遊んでいる時も。

「ねぇ。これ、あげる」

小さな声で男の子は、女の子に手を広げ、真ん丸い形の石ころを見せました。

女の子は首を横に振って「いらない」と言います。

男の子は黙ってその手を下に下ろして石を落としました。

お家に帰って遊んでいる時も。

「これ、あげる」

男の子は側によって来て女の子に言います。

男の子が差し出したのは、手の平でくねくねと動く、緑色の虫でした。

「きゃあーー」

女の子はびっくりして大声をあげて泣き出してしまいました。

男の子は困ったように後ずさって、しゅんとうつむいてしまいました。

女の子は大声をあげて、泣きながらお家に入ってしまいました。

男の子はそれを寂しそうに見送って、とぼとぼとお家に帰ります。

それでも男の子は次の日も、次の日も変な物を女の子にあげようとしました。

「これ、あげる」

ある時はバッタやカマキリ、ある時はダンゴ虫・・・・・・。

要らないと首を横に振り続けた女の子は、その男の子に聞いてみることにしました。

女の子は男の子をさがしに公園に行きます。

丁度男の子は、木からぶら下がるミノムシを捕ろうと、手を伸ばしているところでした。

女の子は慌てて声をかけます。

「そのミノムシは要らないよ。ねぇ、どうして私に変な物ばかりくれようとするの?」

男の子は答えました。

「自分がいいと思うものをあげれば良いって教えてもらったから・・・」

男の子は女の子にうつむいて答えます。

女の子それを聞いて困った顔で言いました。

「でも私、虫をもらっても嬉しくないよ?」

男の子は女の子をキョトンとして見つめます。

「そうなの?。女の子は虫がきらい?」

男の子は首をかしげて女の子に聞くと、今度は初めて嬉しそうに笑って言いました。

「良かった。僕がきらいなのかと思った。」

ホッとしたように笑った男の子の笑顔は、とっても素敵でした。

女の子は、初めて男の子の笑顔を見て嬉しくなります。

くすくすと顔を赤くして笑いました。

「これ、あげる」

男の子は女の子に笑いながらポケットに入っていた、チョコレートを取り出し差し出します。

「とけてるよ?」

女の子は困った顔で笑いながらチョコレートをもらいました。

「お誕生日、おめでとう」

男の子は照れたように笑って、チョコレートを食べている女のに言いました。

「え、お誕生日すぎたよ?」

女の子はびっくりしながら男の子をみます。

「知ってる。僕が引っ越してきた日に、皆プレゼントをあげてたから、僕もあげなきゃって思って・・・」

男の子は戸惑いながら女の子に話しました。

女の子は目を真ん丸にして男の子に首を傾げます。

「じゃぁ、ずっとお誕生日のプレゼントに虫とか石をくれてたの?」

女の子の問いかけに、男の子は照れくさそうに下を向いて公園の砂をけりました。

「友達になって欲しかった・・・から」

男の子の呟き声に、女の子はキョトンとすると、また嬉しそうに顔を赤くして笑います。

「これ、あげる」

女の子からの初めてのプレゼント。

女の子は何も持っていない手を広げ、笑っていました。

男の子は首を傾げます。

女の子はそんな男の子を見ると、くすくすと笑ってまた言いました。

「友達のあくしゅ」

「ありがとう」

男の子は驚いた顔で女の子を見ると、パッと明るい顔をし、笑顔で女の子の手を握り返しました。


−おしまい−





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